NHK語学ラジオ英会話:3講座をレビューしながら選び方を考える「月刊誌」第3回

リスニング学習用として:『CNN English Express』の使い方を考える,雑誌シリーズ第2回

(DEEY─)NHKラジオ第2で放送されている定番の『NHKラジオ英語講座シリーズ』。

やってみたいけど講座数もけっこうあって、どの番組を選んでやるのがいいのか悩むところです。

「ひとつで徹底的にやる?あるいは2つにするか?」
「その前に自分の実力と、番組のレベルが合っているのかがよくわからない」

半年ほど前からいくつかの講座を実際にやってみたので、英語雑誌シリーズ第3回はとして、それらをレビューをしながらいろいろ考えたいと思います。

その中で英語の実力判定ができる「基準となる番組」が見つかったのでそこからレベル別の番組選択方法を示します。

2021年度NHKゴガクでのラジオ英語放送は「11講座」が組まれていまして、その中から今回は

・『英会話タイムトライアル
・『ラジオ英会話(大西)
・『遠山顕(けん)の英会話楽習

の3番組をピックアップしました。一部はテキストを購入して学習を行いました。


(2023年9月、更新)『遠山顕(けん)の英会話楽習』は2021年度をもって終了していて、2022年度より季刊かつダウンロード版となり『遠山顕の いつでも! 英会話入門』として、対象レベルを落としてリニューアルされています。

その他の2講座については、2023年度も継続放送されています。

以下の本稿は2021年5月の情報をもとに書かれていて近々アップデートを予定しますが、実力判定方法や番組の選び方に関しては2023年9月現在でも有効で、そのまま読んでいただけます。

「NHKゴガク」のサイトによれば、7段階の学習レベル設定『NHK英語グランドデザイン(pdfが開きます)』があり下から順に

「A0, A1, A2, B1, B2, C1, C2」

となっています。今回取り上げる3番組は

『タイムトライアル』:A2
『ラジオ英会話』:B1
『遠山顕の英会話楽習』:B2

に分布しています。レベルとしては初中級から中級にあるでしょう。筆者は当記事を執筆するにあたり、2021年の4月にそれぞれの番組を、アプリ『らじる☆らじる』あるいは『NHKゴガク』を利用して聞いています。

NHKラジオ「らじる☆らじる」
NHKゴガク

また昨年2020年度も秋ごろから半年に渡って『タイムトライアル』『ラジオ英会話(大西)』『実践ビジネス英語(杉田)』を聴取していましたので、昨年度との比較の話も合わせてできると思います。 

スティーブ・ソレイシィさんの講座でマンツーマン英会話教室をそのまま再現しようとした番組作りです。

レベルは中級程度に置かれていますが、他番組とは毛色が違うので単純比較はできません。そしてこの番組を十分にこなせる人は意外と多くないと思います。

月曜から水曜は、あるテーマ、シチュエーションに沿ったセリフ練習。

「これから私の言う日本語のセリフを英語で言ってみてください」で始まるスピーキングの練習とその答え合わせ、そしてもう一回復習アウトプット。

木曜、金曜はその週のシチュエーションでの会話練習(まとめ復習的)。

まず状況を説明されて「それでは、ジェニーさんがお相手しますので、自分の言葉で返答しましょう」で、5問から10問のやりとり。

わからなければ日本語で質問OK!オンライン英会話「ワールドトーク」

以前はこのようなアウトプット中心の番組はなかったように記憶しています。いわゆる「NHKラジオ英話」という枠組み中では異色な存在といえるでしょう。

面白いのはこのような番組構成のため、放送時間の1/3は無音だということです(私たちが話している時間になります)。

少し時間に遅れて番組途中から聴くようなことがあると無声でカウント音だけが鳴っている状況に出食わすことがあります。「え?」と一瞬思います。

番組の長さは10分と他番組と比較すると5分短いですが、完全に「話すこと」にフォーカスしていますので、まともに取り組むと脳味噌の疲労度は比較にならないくらい上でしょう。

つまり「学習効果が高い」。

講師のスティーブ・ソレイシさんは日本語の話せるアメリカ人(フロリダ州育ち)、共演のジェニファー・スキッドモアさんもアメリカ人(イリノイ州出身)です。

この番組はスピーキングのためのもので、リスニングについて語る部分はあまりありませんが、お2人の発音滑舌についてははいわゆる教材英語レベルの明瞭丁寧さです。

また講師がネイティブのため、ネイティブならではのアドバイスを聞くことができるのも嬉しいところ。

「どちらの表現でもいいです。」
「△△でもいいですが、少し硬い表現になります。〇〇でいいでしょう。」
「△△とは言いません。〇〇と表現します。」

など。スティーブさんは多くの教材を著作しているので、日本人の弱点もよく理解されているようで、勉強になるでしょう。 

この番組は「テキストで予習する」ようなやりかたは必要ありません。何でしたらテキストを購入する必要すらも・・・

ですがそこはうまいものでして、テキストにはスティーブさんからのアドバイスや解説がところどころ散りばめてあり役に立ちます。

それから自分の発言用にスペースが空いているので、後での復習用やライティング用にも使えます。

対象者かどうかの判断ですが、金曜の放送を聴いてみて「十分な会話ができるている」という認識があればこの番組は必要ありません。

内容はとても基礎的で短い日常会話の文章が中心です。単語も優しく状況もシンプルです。一方でスティーブさんやジェニファーさんに話しかけられて

・頭が真っ白になって
・言葉が出てこずに
・結果、時間オーバー
・そしてその状況の繰り返し

そのような場合は経験不足もあるのでしょうが、文法の理解不足も考えられます。

この番組以前に必要なことがありそうです。

もし仮にこの状態で実際に英会話教室に通っている人がいるとすれば、それはあまり身につくことなくお金を払っている状況なのかなと思います。

そしてこの状態を日本語を話さない英語ネイティブの人の力をもって解消することは難しいのです。

スティーブさんは流暢な日本語を話しますし教育者でもあるので、その点に不安はないのですが

「なぜ、そうなのか」

の部分には10分という時間の制約のため説明が及びません。

ただ日本人の場合特に「教材の英語の会話を暗記するだけ」で英語はできるようになりません。この番組の使い方で注意するポイントです。

数学も公式の暗記だけではきるようにはなりません。数学同様「英語で考える方法」を練習しないといけないのです。

そのためにはこの番組と並行して「日本語と英語は違うこと」「どうやって英語を組み立てるのか」を誰かからコツを聞いて練習する必要があると思います。

できれば英語の出来る誰かから日本語で習って「英語の理屈」を日本語で腹落ちさせることは必要なことなのだと思います。

例えば次の大西さんの講座も役に立つと思います。

大西さんの講座です。伝統的なNHKラジオ英会話の番組構成です。レベルはB1で「社会生活の身近な話題で意思疎通ができる」に置かれています。

この番組は年度が変わって、アウトプットの時間が少し増えて全体がリバランスされました。

ダイアログのやりとりが少し短くなり、ダイアログの繰り返し回数も減った印象です。その分で、

「これから私が言うことを英語で行ってみてください。どうぞ─」

的な上記『タイムトライアル』的なアウトプットの時間が少し増えました。

番組フォーマットはの前半の7分で、

・当日のテーマ紹介
・文法や構文の説
・それらを用いたダイアログのリスニング
・和訳解説

など。ダイアログの実演英語を除けば大西さんの日本語が中心です。

そして後半の大部分で前半のダイアログで使用されている文法と語彙の説明に時間をかけます。説明には文法用語が多用されます。第五文型、不完全動詞、過去分詞構文・・・などなど。

最後の1/4の時間で当日のトピックに関わるアウトプットの時間が少しあります。

大西さんは日本人がなぜ英語が話せないかを理解された上で、核心をついたアドバイスを放送中に散りばめます。「なるほど。」と思うことが毎回ありました。

リスニング的にはこの番組は少し特徴があります。それはアメリカ英語が中心のラジオ講座にあって、標準的なイギリス英語が聴くことができることです。

共演のポール・クリス・マクベイさんがイギリス出身です。相手の秋乃ローザさんはカルフォリニア州育ちのバイリンガルでアメリカ西部英語です。

ちなみにおふたり共に発音は、英語学習者を意識した明瞭でゆっくり丁寧な滑舌で教科書的です。  

この『ラジオ英会話(大西)』の利用目的は、当サイトの目的とすこし似ていると思います。

以前にも似たようなことを書いたのですが、それは英会話に通う前にあるいは英会話に通ったけど上達しなかった時に「英語のできる日本人に聞いてみよう」というイメージです。

英語の基本が理解できていないわかりやすい症状は、上記の『英会話タイムトライアル』で述べた通り「そもそもどうしていいかわからない」です。

あるいはさらにその手前の段階の症状は「字幕付きでドラマを見ていても意味がわからない」ですが、いずれの場合もまず必要なことは英文法だと思います。『ラジオ英会話』では

・日本語と英語の違い
・どうやって英語を表現するのか
・英語とはどういうものなのか

など大西さんはかなり的確なアドバイスをなさっています。ただ短い番組時間の中では、せっかく「いいこと」を聞いてもなんとなく素通りしてまったり、立ち止まって納得する時間が取れなかったり。

幸いにアプリを使えば何度でも繰り返し聞けますから、この『ラジオ英会話』に関してはテキストも準備してじっくりと、大西さんが伝えたいことを考えながら、英語の法則を理解する一年と腰を据えて学んでしみるのも良いと思います。

ちなみに『タイムトライアル』で頭が疲労するレベルの実力がある方であれば、この番組はほとんど聞き取れるでしょう。

大西さんのアドバイスはそれでも染み入ると思われます。ですがそれより次の遠山さんの講座を試してみましょう。

遠山さんの講座です。この講座を今回のために計6回分程度ですが聴取しました。

内容は大西さんの講座のアップグレード版だと思いました。

レベルはB1-B2「社会生活の幅広い話題で意思疎通ができる」に置かれています。この講座は比較的リスニングに重点を置いていると感じます。

アウトプットの時間もありますが、それらはどちらかと言うと発音や抑揚、リズム、リエゾンの練習と感じます。

講座は予習を前提に進められます。英語文をアウトプット(スピーキング)する時間もあることはありますが、その予習ありを前提としているため遠山さんの、

「それではどうぞ─」

のあと私たちに与えられる時間も短く、予習なしの即興では難しく感じました。「アゥアゥ」になる。

この番組がリスニング重視に感じると言ったのは、その日のダイアログを全部で4回聞く構成になっているためです。ただその4回はそれぞれが工夫されていて、同じではなくこの点は面白いと思います。

・最初に1回
・シャドウイング用に2回目
・セリフスピードを上げて3回目
・場面状況(演技のセリフ)を変化させて4回目

共演のお2人(後述)が声優さながらの演技をされますし、ダイアログの内容も面白く、まるでディズニージュニアのアニメを見ている(聴いている)ような印象を受けます。

冗談や言い合い、じゃれあいなど日常の親しい間柄の会話が聞ける点も勉強になると思います。

一般の教材にありがちなどこかよそ行きの、ビジネス的な会話と比較すると『英会話楽習』で使われる単語や語彙イディオム、加えて発音は、友達や兄弟姉妹の間柄に近く、ドラマや映画よりと感じます。

先に遠山先生は「予習を前提に話を進めている」と言いましたが、あえてこの講座も予習はしません。ところどころ日本語が混ざった英語ラジオを聴く感覚でいいと思います。

番組内では事前にテキストを読んでいる前提で「テキストのカッコの部分に当てはまる単語は・・・」「ではダイアログです。穴埋め問題もお忘れなく」などの質問や発言が出てきますが、気にしないでも番組そのものは楽しむことはできます。

そして売りはなんと言っても随所で聴ける3人のフリートーク(半分以上は台本でしょうが)なのだと思います。

例文の場面やそのセリフなどを拾って3人が自由に発言し、意見を述べて会話が盛り上がります。

遠山さんも普通にネイティブの2人に違和感なく溶け込んでいて、なおかつ日本語と英語を行ったり来たりされているバイリンガルです。発音抑揚も日本人離れしていて、たいへん自然で聞きやすいです。

残念なのはこの部分のトランスクリプト(文字起こし)がおそらくテキストには含まれていないこと。ここが番組では一番面白いところなので音声を買って繰り返し聴くことをお勧めします。

まあそれでも正解テキストがないので、聞き取れないところは結局聞き取れないままで気持ちが悪いかもしれませんが─、そこは妥協します。ある日聞き直したとき聞き取れるようになっていれば大進歩ということで・・・

共演のキャロリン・ミラーさんは、[r]の舌を巻く感じの音が強いタイプに聞こえます。カナダトロント生まれ。声優さんでもあるらしく、男の子役から高齢者役まで様々な声を演じることができ、また活発なキャラクターで楽しく魅力的です。

もうひとかたのジェフ・マニングさんはユタ州出身のアメリカ人。こちらもスキットでさまざまな声を操り出します。普段は穏やかな声質で聞き取りやすい。

最後に『ラジオ英語講座』のレベル別の判断を。今回取り上げた3番組はそれぞれ

・『タイムトライアル』はアウトプット
・『ラジオ英会話』は英語の基礎理論学習
・『遠山の英語楽習』はインプット

を目的として取り組むことができます。そしてこれらの番組をやるかやらないかについては、次のように考えます。

英会話タイムトライアル』(B1-2)を基準とします。

この講座をやさしいと感じるのであれば、『NHKラジオ英語』の講座自体が「必要ない」レベルと思います。

つまり能力的に「英語で考える方法」がわかってるということなので『ラジオ英会話』(B1)レベルは必要ありませんし、また『英語楽習』(B2)が聞き取れない、ということもないでしょう。

その場合はより上のレベルの『ビジネス英語(レベルC1)』講座が、(社会的な立場によっては)役に立つかもしれません。

でもそれであれば『English Journal』や『CNN English Express』という選択肢もあります。これらは台本ではなく実践的でリアルです。

次に『タイムトライアル』がなかなか難しい感じがする場合。繰り返しになりますが、頭が真っ白になって英語が浮かんでこないレベル。

ラジオ英会話(大西)』でまずは「英語で考える方法」や「英語ではやってはいけないこと」などを学びます。『タイムトライアル』と2つ同時進行でいいと思います。

3つ目はその中間のレベル。これも自分の身体で(頭の状態で)判断できます。

英会話タイムトライアル』でいい勉強ができている状態、つまり、

・「イライラする」
・「歩きまわる」
・「目がしょぼしょぼする」
・「あくびが出る」

つっかえたり、言葉が出てこなかったり、時間切れだったりしながらも上記のような状態。

それはレベル的にぴったりな脳の反応。がんばりましょう。英語脳が構築されつつあります。

そしてそのレベルであれば『ラジオ英会話』は不要でしょう。それでも大西先生の一言は「刺さる」ことが多いので聞いてみるのはおすすめです。

その上のレベル『遠山顕(けん)の英会話楽習』はドラマや映画のリスニング基礎習得の練習になるでしょう。でもそれであれば『ディズニーチャンネル』という選択肢もあります。


(以上、2021年5月)

『英語雑誌シリーズ』:以下続編第4回
イングリッシュジャーナル休刊:ヒアリングマラソンもすでに終了していた,シリーズ第4回

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