MLBメジャーリーグ:現地実況音声で見て果たして英語の勉強になるのか
・2025年メジャーリーグ放送:アマゾンプライムでMLB.TVが見れるようになった

今回のリスニングレビューはアメリカの
『メジャー・リーグ・ベースボール(以下、MLB)』
現地実況中継です。シーズン開始の3月末から終了の11月まで、NHKBS1で二か国語放送されています。
今回はその副音声について解説します。あとMLB.tvについても少し説明します。
(2025年5月)
2025年版のMLB放送配信については
(2024年5月)
SNLAの感想ほか、MLBを見るための他の手段についてもまとめました。
2024年MLB開幕。NHK副音声はドジャーズ地元放送 “SportsNetLA”
(2023年8月)
先日大谷選手が出場したシアトルとのホームゲームを見ながら、現地中継で実況されたMLB用語などを60個くらい拾ってみました。
大谷選手の試合からピックアップ。MLB現地放送の英語表現や用語集
1)とはいえ野球の試合は長い
3時間以上のゲームはざら。
平日働いていれば決して十分な時間は取れません。筆者の日常では、録画したものを帰宅後に何かをしながら半分でも見れればよし、です。
ですけど─そうなるとそれはほぼ
“ながら見”
であり、そしてながら見ということは
・聞き捨て
・聞き逃し
・意味不明部分の放置
のオンパレードということで。で、字幕がないのでもちろん答え合わせもできません。そしてゲームは次の日もあります。
2)英語の聞き流し
” 英語のながら聞き”については以下の記事で考えてみました。
英語の聞き流し、ながら聴き。無意識インプットはどれだけ効果があるのだろうか?
上記事の要点はリスニング力を向上させるためには
・字幕があること
・精聴すること
が必要です、ということです。その意味でNHKのMLB放送は、字幕がないので学習には不向きといえます。でも、
・好きな野球を見て、
・教科書英語ではなくて、
・NHKラジオ英語でもない、
・CNNでもない、
・ドラマでもない、
・たぶん台本もない、
ネイティブ同士の日常発音を聞くことができるMLBの放送は、なかなかの題材だと思っています。
ついつい見始めて、途中からほとんど聞いてない状態という日々・・・
野球専門用語と聞きなれない選手名だらけですから、好きじゃないと無理ですけど。
・3)NHKBS1での放送頻度
放送頻度について。
これは日本人のメジャーリーガーの人数やその活躍の度合いによって、毎年のようにあるいは毎月のように変わります。
オリンピック等のイベントにも左右されますね。
今年は大谷選手が大活躍していますが、オリンピック・パラリンピックのひと月の間、放送はありませんでした。
そのオリンピック前、今シーズン前半はダルビッシュ選手や大谷選手らの活躍によって、ほぼ毎日1試合から2試合程度生中継されていました。
日本での放送時間は、西海岸で行われるナイトゲームですと午前9時から11時くらいの間に始まります。
東海岸のゲームは日本では真夜中時間で、ライブ中継はされているも見るのは難しいですね。
昔はよく再放送がされていました。
4)MLB.tvという選択肢
もし興味とやる気に溢れそうな時には、MLB傘下でMLB.tvという配信チャンネルがあります。
[外部リンク] MLB.tv
ここでは連日毎日全試合が配信され、有料で視聴(そうは言ってもNHKも有料ですが)できます。
そして特に1日ひと試合だけ ”Free Game Of the Day” と称して無料で視聴できるようになっています。
どのゲームが無料放送になるかはランダムになっていています。
さらに年に何日かは全試合が無料で開放される日があります。
ここではすべてのゲームで字幕CC(クローズドキャプション)を表示することが可能です。
これはリスニングの答え合わせ用として使うにはもってこいと思えるのですが─、問題がないわけではありません(後述します)。
5)球団ごと全30局以上ある?ローカル実況中継
MLBの試合を実況中継する局は主に、地元や地元支社のケーブル・配信ネットワーク会社です。
MLBは現在30球団ありますから、つまりは30のネットワークが1日でそれぞれ30の中継を放送しています。
「え?」
「球団数は30でも試合数は15なのだから15番組では?」
いえ、30あるのです。ですからMLB.tvでは、
1)まず見たいゲームを選択し
2)次にどちらのチームの放送局で見るかを選択します
3)あるいはラジオ音声も選択できます
NHKBS1の副音声も実は、この30あるローカル放送局のいずれかの音声を使用しています。
その音声は日本人所属チームの放送局がほとんどです。たとえばLAエンジェルスとシアトルマリナーズの対戦があったとすると、
昔はイチローさんがいたシアトルの放送局の実況がNHKBS1の副音声。
今は大谷選手がいるエンジェルス側の放送局が副音声です。
あとはごくたまに有名対戦カードでは大手ネットワークが放送します。ESPNやFOX、最近ではAppleTVなども。
6)現地放送のフォーマット
基本的に日本と似ていますが、もう少し自由な枠組みも感じます。
構成は実況担当と解説担当の2人編成が基本です。
彼らは局の専任であることが多く、何人かでローテーションしながら1年間162試合を担当します。
専属解説がもう1人加わって3人体制の局(YESなど)もあります。
またゲスト解説(多くは元プレーヤー)が数イニング加わることがよくあります。
時にはスポンサーや慈善団体の人がやってきて、試合そっちのけで1イニングに渡って延々宣伝をして・・・
結局野球の話は一切なく帰ってしまった。なんてことも。まあだいたい相手の攻撃イニングの場合がほとんどですが。
イニング中も各所に球団のチケット情報や物販の宣伝が散りばめられています。
試合中や前後のインジュリーレポート、フィールドレポート、選手へのインタビューなどはブロンドの美人さんが担当です。お手本のような正確で美しい英語を話されます。
LAAで言えばBSWのエリカ・ウエストン(Elica Weston)さんです。
また地元の放送ゆえの特権でしょうか、試合中に選手や監督がインタビューに応じることもあります。
驚くのはゲーム中に、選手がマイクとイヤフォンをつけて守備に出てブースの実況者達と会話する、なんてこともあります。
「おっと、球きた!」
って言って会話終了、みたいな。
実況中継ということで少し異色だった球団としては、少し前までのLAドジャーズが思い出されます。
スカリーさん(Vin Scully)という方が、相棒もなく一人で試合終了まで数時間、淡々粛々と語る様式美が名物の中継となっていました。
7)アメリカの実況解説の特徴
30もの放送局があるので特徴はさまざま。全体的な印象としては次のようになります。
まず基本的にアメリカ人は明るく話し好きなようで、どの局も会話が途切れることはあまりありません。
たとえ延長16回の試合を聴いていても彼らは疲れ知らずです。それどころか
「こんな長い間ゲームを見られて幸せ」
とすら言っているのを聴いたことがあります。
日本同様に解説者は元選手ですが、日本ほど実況と解説の役割は明確分担化していません。
・バッティングオーダーの紹介
・先発ピッチャーの戦績紹介
・スポット広告の読み挙げ
・イニング終了時のCMコール
など日本では実況アナウンサーの役割でしょうが、アメリカでは必ずしもそうでもありません。むしろ解説者の役割です。
また解説者も率先して冗談を言い、話を脱線させます。
8)解説は褒めるのが基本
そしてコメンタリーの態度は、自チームであれ相手チームであれ褒めるのが基本です。
ホームランを打てば打ったバッターが褒められます。
三振を取れば打ち取ったピッチャーが褒められます。
日本のように打たれた時はピッチャーの配球や球種の問題点が挙げられ─
あるいはバッターが三振すれば、そのフォームをはじめ打撃指導的に原因を追求指摘する─
そんな様子とはかなり異なります。あくまでもエンターテインメントと位置付けている様子が伺えます。
そういった中で、ネガティブと取られかねない発言はほとんどありません。それはたとえ相手(ビジター)チームの選手であっても同じです。
打てば打った打者がすばらしい。
打ち取ればピッチャーがいい球を投げた。
のです。それがポテンヒットであってもど真ん中の球であっても。
9)スポーツ中継の中ではそれでもまだ優しい方?
さてやっと本題のリスニングです。
試合の実況中継ですが、それそのものはそこまでは難しくはないかなと思います。基本目の前で見ているものの説明です。
聞きなれない単語も、そういう用語として覚えれば次からは聞き取れるでしょう。
ただ野球はデータ(数字・記録)を楽しむものでもあるので、様々で独特な数字表現、記録説明、現役や引退チーム名人名、過去の選手名が飛びかいます。
ここは日本も同じですね。状況に絡めて昔のデータを引き合いに出しつつ
「この記録は1923年に誰々の二年目に、どこぞのチームに所属していた時以来、初」
のような話はよく出てきます。そして日本の中継と比べて少々厄介なのは選手の呼び名ですね。
日本では単純に苗字の呼び捨てですが向こうでは
・フルネーム
・ファーストネームのみ
・ファミリーネームのみ
・略称
・愛称/別称(ニックネーム)
・代名詞・一般人称(You)
など、ほんとうに様々。選手名を切り出せないとヒアリングは当初苦戦すると思います。
ですがそこは語順に厳格な英語です。おおよそ主語は先頭にくるものなので、頑張慣れれば問題ないでしょう。
そうでもないか。
まあでもそれが誰であるかを知らないと、話に置いていかれるのは日本語でも同じですし。
それでも野球はある意味”静的”なスポーツで、動と静のコントラストのなかに存在します。
例えば他のスポーツ、NFLやNBAあるいはサッカーなど動的な流れの中で、目まぐるしい展開が見られるのとは少し異なります。
野球は選手の交代も静的。そして選手の数自体もそこまでは多くはない。
NFLとか見てると本当に目がまわる。野球はまだ、状況把握に関しては優しい方かもしれません。
10)解説の発声・声質はさまざま
実況解説の音的な側面について。
若い声から完全にお年寄りの声まで様々。解説の方々は引退した選手の場合がほとんどですから40代50代が多い印象です。
人種的には白人がほとんどの印象です。シアトルの実況は黒人の方が長いあいだ勤めています。時々解説やゲストに黒人選手が呼ばれます。
実況の人は話すことをプロとして練習しているので聞きやすい場合が多いです。
一方の解説者は、発音や速度が千差万別で、一般的には聞き取りが難しい人が多いです。
あまり抑揚を付けずに冷静にぶつぶつと喋るタイプ、早口、冗談好き、滑舌が良い、良くない、など。これは日本でも同じですね。
大谷選手の所属するLAAのゲームを放送しているBSWの解説者の方も早口で、淀みなく、それでいて洒落っ気もあるので難しいです。
そして特に実況と解説者のやりとりになると難しく感じます。
技術的な解説もイメージが湧きにくく、野球好きでもなかなか苦労するのではないでしょうか。
例えば投球フォームの解説やバッティングフォームの描写など、ともに日本の説明感覚とはだいぶ異なる感じです。
流して何げに聞いていても頭に絵が浮かんでこないことが多いです。
また野球以外の話題への脱線パターンもとても多く見られます。途中から主語の省略や分詞など使われ、誰の何の話かわからなくなります。
冗談が混じり、時代が前後し、野球と思いきや昔の映画の話になり、ドラマの役者の話になり、オジー・オズボーンが出てきたあげくに、内輪受けの話になり・・・
・・・どんどん話が見えなくなります(笑
英語の発音発声に話を戻すと、アナウンサーはさておき極端に訛りのある解説者もほとんどありません。
サッカーとは異なりアメリカ人がほとんどと思われますがそのためでしょうか。
黒人の方は独特のリズムと発音があるのでリスニング的には、自分たちの不慣れもあってで難しい!
余談ですが─、球場の臨場感もマイクで拾っているので聞こえますよね。
ですがこれが球場や試合によってけっこう音量差があって、球場ノイズや歓声で実況が聞きづらことがたまにありますね。
こういうときは・・・諦める。
つけたし余談ですが、2020年シーズンはコロナの影響で無観客で試合がおこなわれました。
そのため当初は、当然ですが球場はほぼ無音で静か、いや寂しい、いや奇妙な感じでした。
ですがシーズンが進むにつれ”賑やかし”のため?なのかまずは
観客の”書割り”
を球場側が作成し始め、それらで席が徐々に埋まるようになりました。で、
「かなり作ったねー」
と思っていたら、その後しばらくしてから今度は観客の歓声等を録音したものをスピーカーから流すようになりました。
最初は笑っていましたが、これが慣れてしまえば不自然感もどこへやら。アメリカ人の楽しむ姿勢が垣間見れました。
11)ネットワーク別レビュー
30局ある放送局のなかから、日本でもおなじみの局をピックアップしました。
以前はタンパベイやボストンの局もよく放送されていました。最近はLAドジャースやサンディエゴの局もよく放送されますね。
・RSNW(Root Sports Northwest)
NHKBSでシアトルマリナーズの試合が放送されるとき、副音声の多くはこのネットワークです。
イチロー選手が現役時代はよく放送されていました。現在は放送も少なくあまり聞くことができなくなりました。
実況はホームゲームを中心にDave Simsさん(黒人)。ロードをになるとAaron Goldsmithさん(若手)。
解説はMike Blowersさんがほとんど。比較的抑揚なく平坦で早口です。実況解説ともかなり難しいです。
・BSW (Bally Sports West)
「ビッグフラーイ、オオタニサン!」の実況で日本で有名になられた方が在籍していた現地放送局。
LAエンジェルスの放送の時の副音声はほぼこのバリー・スポーツ・ウエスト(BSW)です。
解説はほとんどがマーク・グビサ(Mark Gubicza)さん。
実況と解説のテンポが良く、若くて明るく聞いていてとても楽しいです。ただ二人とも冗談好きなので、二人が盛り上がってくると置いていかれます。
・YES(The Yankee Entertainment and Sports Network)
松井さん、田中さん、黒田さん、イチローさんが在籍していた頃は、日本でもヤンキーズ戦はよく放送されていました。そのときの副音声はここのYESでした。
実況+解説2人の3人編成が当時は多かったです。実況はほとんどの場合Michael Keyさん。
彼はところどころ辛口で解説陣に論理的に詰め寄る場面も。
解説陣は何人もいらっしゃいますが、みなヤンキース出身なのが特徴です。Paul O’Neillさん、David Coneさんが中心だと思います。
時々実況者なしで解説3人だけで回す時もあります。比較的丁寧な解説でわかりやすく、また3人でやっているためよく盛り上がり、話があちこち飛びます。
12)もしMLB放送でリスニングを鍛えるなら
ここまで長々と述べてきましたが
” 半分も聞き取れない素材の多聴は効率極めて悪し ”
という経験則がありまして。基本的には学習用としては上級者以外はお勧めしづらいです。
野球をお題にした完璧なリスニング素材なんです(2度目)。がNHKBSを見ているだけだと聞き取れないとこころの答え合わせをしようがありません。
「でも、トライするのは悪くないでしょ?」
・・・ですね。それではまずは始めるにあたって実力チェックをしましょう。
1)まずはMLB.comの好きな記事を読んでみましょう。
そこに書いてある選手の言葉や専門用語、解説文などだいたい理解できるし知っている、といことを確認ましょう。
さらっとつかえずに読める程度の力は必要かなと思います。まあ、つっかえてもいいです。つぎ。
2)MLB.tvの無料放送がひと試合あるので視聴しましょう。
放送局によって聞き取りやすい、聞き取りづらいがあります。
無料放送の過去ゲームに遡ったりして、いくつかの局をランダムに見てみるのもいいです。
そしてそのゲーム視聴中にチェックする点として
3)字幕CCの有無の確認。
MLB.tvの字幕はアナログ的に人が聞きながらタイピングしている、あるいは最近はリアルタイムでAI(機械)が字幕を作成表示していると思われます。
そのためなのか字幕表示は喋りの数秒遅れでなおかつ、クオリティは放送局によってかなり異る状況です。
YouTubeでも字幕CC表示ができるコンテンツが増えていますが、それと比較もしてだいぶクオリティが落ちる印象です。
以上よりまずはきちんと精度の高い字幕が作されている放送局を最優先に。
そして自分が見たいチームの放送局をその次に。
”聞き取りやすさ”は字幕があれば優先順位は下げてもいいでしょう。
試合は平均で3時間前後はあるので、全て集中して聞くことは現実的でありません。
かといってBGMとして流していても、英語の学習効率はほぼゼロで、気休め程度にもなりません。
なるべく一部分でも良いので、切り取って何度も繰り返すのがいいでしょう。
(以上、2021年9月)
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